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« オリジナルSSS | a sham world's end »

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« オリジナルSSS | a sham world's end »

place


もう戻らないあの世界を夢見る彼とこの世界の話

・シャドウとソニック。ちょっとだけマリア
・ほのぼの≧シリアス
・ちょっとシャドウが鬱気味
・一応ハッピーエンド
・そこそこBL風味…




 ぼうとした景色の中、ふと目を開けた。
ここが何処だか、この僕は考えることをしなかった。
理由はわからない。ただ、ぼうとぼやけた意識外の背景がそこにあった。


 ― 大丈夫、シャドウ?

 声がして、それを見ると、金色に輝く髪の少女がいた。
僕はそれを認識した。彼女は、僕の大切な人、マリアだ。
 話を聞けば、僕は生まれたばかりで身体のコントロールが効かず、
高熱を出して寝込んでしまっていたらしい。
そう言われてやっと、僕はベッドに寝ていることに気がついた。

 ― 心配しないで。すぐ治るわ。

 そう言って彼女は柔らかく微笑み、僕の額を優しい手のひらで撫でた。
僕は目を細めた。
背景は相変わらずぼんやりとして、はっきりとその顔を見せない。
きっと熱のせいだ。
だが、彼女の色は明澄に僕の瞳に映っていた。
 彼女はその柔らかな笑顔で、冷たい水に濡らしたタオルを、僕の額に乗せた。
ひんやりとした刺激が、皮膚を伝って送り込まれる。


 僕は、妙な衝撃に襲われていた。
懐かしい、と思った。
昔感じたこの空気に触れて、懐古すると共に、変な疎外感を覚えた。


 ・・・『昔感じた』?

 マリアは今、僕は生まれたばかりだと言った。
懐かしさを感じることは有り得ないのだ。

 その時、僕の意識が蘇った。
 僕はこの感覚を知っている。
 知っているはずなのに知らない世界-知らないはずなのに知っている世界。
ここにあるはずなのに、気が付いたら消えている。儚き、泡沫のような。


 これは、夢だ。



「・・・マリア」

 そばにあったイスに座って、傍らにいたマリアに、僕は声を掛けた。
なあに、シャドウ?、微笑むその声も、近くにいるはずなのに、何故か 遥か遠い。
 この感覚を、僕は、何故知ってしまったのか。

「僕は」

 この感覚を、僕は、知ってしまったのだ。


「ずっと、此所に居たい」


 それでも、僕はそれに抗おうとした。
この意識に気付かないふりをした。
 けれど、僕はこの感覚を知っている。


 ― それはダメよ、シャドウ。

 だから、彼女は否定した。

 ― あなたは知っているでしょう、シャドウ。
  ここは、あなたがいるべき所ではないわ。

「何故そんなことを言うんだ、マリア」

 ― ねえ、シャドウ?


 ぱしゃん、冷たいはずのタオルが落ちた。
 もう高熱など感じなかった。いや、本当は最初から感じていなかったのだ。
背景は、先ほどよりもぼけて 色が混じりあい、彩度が落ちていたようだった。

 そう意識した途端、段々、色が色でなくなっていった。
彼女も例外ではなかった。

 ― 大丈夫よ、シャドウ、だから、



 ぐん ―、意識が転落したような感覚が、頭に降る。
 色が完全に混じりあって、彼女の最後の表情を見ることは、叶わなかった。






 真っ暗な景色があった。
これは目を閉じているだけなのだと認識したのは、近くにある気配を感じてからであった。
それから、自然に開く目をそのままにしておくと、色のある風景が飛び込んできた。
世界は90度傾いていたが、森が見下ろせる所に、僕はいた。
しっかりと色が乗せてある、ああそうか、これは現実なのだと、僕は思った。
 変に高度のあると思えば、僕はミスティックルーインのジャングルエリアにある遺跡で、
眠りに落ちてしまったのを思い出した。
そういえば、随分と寝てしまったようだ。日は傾いて、視界を橙色に染めている。
今日は、GUNからの指令もない、久々の休日だった。

 僕がそこまで思考を巡らせてから、先ほど感じた気配が、痺れを切らして声を掛けてきた。

「Good...Good morning、シャドウ?」

 そいつは少し声をかけづらそうに、僕に音を投げ掛けた。
その声が疑問系だったことに不思議に思った僕は、無意識にそいつへ目線をやった。
 そいつの正体は、ソニックだった。

「・・・」
「あ、いや、別にずっと見てた訳じゃないんだ!
 ちょっと見掛けたから、ちょっと・・・あ、これは、別に関係ないんだ、気にしないで、くれ、」
「・・・」
「・・・」

 僕は反応するのが面倒で、終始無言で彼の謎の言い訳を聞いてやった。
彼は、僕に掛けんとしていた薄い掛け布団を 慌てて後ろに隠すと、気まずそうに苦笑した。
僕が怒り出すのかと思ったのか、はたまた 彼自身がしようとした行為がただ気恥かしかっただけなのか、
その彼の苦笑の意味は僕の理解出来る範囲ではない。
 ただ、僕は起きるのも面倒だったので、遺跡に座り上体を寝かしたその体勢のまま、
視線を先ほどの場所へと戻した。
 しばしの沈黙、焦りの感情が消えたらしいソニックは、軽く溜め息を吐くと その口を開いた。

「にしても、オマエが昼寝なんて珍しいな。
 あまりにも静かに寝てたから、死んじまったのかと思ったぜ」

 いや、まじまじ見てた訳じゃないけど、誤魔化す様に直ぐにそう付け足して、ソニックが言った。
 僕は、ぼんやりそれを聞いていた。まだ夢の中にいるような気分だった。
ただ、それは気分だけで、夢の中にいない自分を、90度回転した景色を見ながら、少し悔やんだ。


 ああ、それなら、死んでいた方が幸せだったかも知れない、とも ―。



「・・・シャドウ」

 ソニックが、僕の名を呼んだ。僕はそちらに視線を移す。
 彼は僕に並んで座って、ばさ、後ろに隠していた掛け布団を、彼の膝と僕の体に掛けて、
それから、彼は口を小さく開けた。

「・・・確かに、世界には大きな障害があるかもしれない。
 世界はオレ達を拒絶するし、嘲笑ってくるし、抗ってるオレ達を排除しようとする。
 そのくせ、そいつは平然とした顔で回ってる。腹立つさ。ああ、もう、そりゃ投げ出したくなる」

 ソニックは、こちらを見ていなかった。
眉間の皺を深めて、どこかを見ながら、口を動かしていた。

「ずっと夢見ていたい、って思うさ。
 だけど、未来は来るように来てしまう。
 逆らえないんだ、オレ、達は」

 何度も世界を救った彼が、そんなことを言った。
「だから、オレ達はどうしようもなく、生きるしかないんだ」


 なあシャドウ、ソニックは声を強めて、こちらを見た。
その瞳は、突き抜くような コントラストの強い緑色をしていた。

「オマエは、そんな世界から逃げ出さない道を選んだ。世界と戦う決心もしてる。
 でも、だからといって、気ィ張って生きる必要もないさ。
 そんなやり方じゃすぐ疲れちまうし、嫌になっちまう。
 生きるのって、もっと気楽で、思ったより楽しいんだぜ?」

 彼は微笑んでいた。それは、彼らしく生きて来た事実を、誇らしく僕に見せていた。
僕は無言だった。
ただ、僕はその笑みを見つめていた。

「少しぐらい立ち止まってもいいさ。
 疲れた時は、少し寝たらいい。少し寝て、そしてまた歩き出せばいい」

 僕にふと触れて、

「この世界は、いくら寝てもこんな世界だけど・・・、
 オマエにだって、自分の身体、預けられる所ぐらいあるだろ?」

 彼は、ぽん、ぽん、一定のリズムを刻んで 僕の身体を優しく叩いた。


「この世界には、オレ達がいるんだからさ」




 僕は、深い意識の底でそれを聞いた。

 僕がここで感じた世界は、ある種の混沌を宿していた。
 相手を探り合って、相手を攻撃して、騙して、あるいは相手に自分を合わせて、相手を利用して、
するかされるか自分に害が及ばないようにじっと身構えて、
自分が傷付くのを嫌って相手を拒絶して、自分の身体という陣地を作って、
――― そのくせ、自分が、その拒絶した相手たちに支えられているのを知らない。
 嫌な駆け引きばかりしなければならないこの世界は、
なんて汚濁した、我儘な世界なんだろうと、そう思った。

 だから、僕は何時迄も夢の中に居たかった。
 何時迄も、あの世界に居たかった。
 壁もなく、嫌な駆け引きもない、心から人と接することの出来る、あの世界に。
 何時迄も、あの世界に居たかった。

 そう、思った。


 僕は、勘違いをしていた。
 確かに、この世界は僕を拒絶しているかもしれない。
あの世界も、もう泡沫の夢となった。ある意味では、あの世界も僕を拒絶した。
 けれど、僕はどうしたって この世界に存在している。
 この世界には、あの世界があるのだ。
 此所にあるあの世界は、今は届かぬあの世界とは似て非なるものだが、
けれど、この身を預けられる場所が、確かに此所にあるのだ。

 だから、あの世界に執着などしなくてもいい。
 まして、この世界に絶望を抱く必要などないのだ。
 自分を受け入れてくれる世界が、身体を預けられる世界が、此所にあるのだ。

 今の僕には、それだけで十分だった。



 ソニックが僕にしている仕草に、僕は覚えがあった。昔マリアにされたことがあった。
それは、まるで赤子をあやすものだった。
だが、僕はそれを拒絶しなかった。
そんな気力もなかったし、今はただ寝ていたかった。
僕は、休息を許されたのだから。


 深い、深い眠りへ、意識を落として行く。
ごつごつとした石と、僕を優しく包む掛け布団の、
アンバランスでバランスの取れた感触を感じながら、僕は眠りについた。


 夢は、見なかった。



― place



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