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« ソニックSSS | place »

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« ソニックSSS | place »

オリジナルSSS


あまりにキャラ崩壊したものをこちらに集めました。
名前が出てないのでご想像に合わせてお読みいただけます。
一応、キャラのイメージはソニックとシャドウでした・・・

全てシリアス・鬱々な文です。


― tell me ***
― letmeknow
― Because of living
― Endless End
― Pain color
― 救いのための虚無だとしても
― 赤月も最期
― 秒針の音
― Winter
― Move





 また、「どうして」と彼が言う。
彼の覆い隠す世界から雨粒が落ちた。
一つ、もう一つ、すうと宙に線を描いて消える
それは、まるで、浮かんでは墜ちる空虚な希望。
生まれては死んでいく願い。

 たった一つのWに惑わされて、自分という存在すら吸い取られる。
そうだったのかと気がついた時にはもう、遅い。


「どうして」


 彼の崩れた欠片を、集めてやった。
オレには、それしか出来ないから、
せめて、今オレが彼に出来ることを。


「もう一度、」



― tell me ***



*



 彼は、口を開くのをやめた。
一度口を開けば言い訳しか出てこない事を、彼自身が知っていた。
もしそれが真実だとしても、彼にとっては愚かな弁明にしか成り得なかった。
心の中に澱みとなって溜まっていく「でも」や「だって」が、
吐き出し口を見失い、黒い荷となり彼の背に伸し掛かる。
それがやがて彼を蝕む毒虫になることも知っていて、
けれど彼が口を開くことはなかった。
 彼は、空を見ていた。
遠い空だ。
グレーよりも黒ずんだ雲が、遥かからこちらに流れてきていた。
彼は動かない。
彼になら、その黒雲をまっさらな白いキャンバスにすることだって、きっと可能なのに。


 それすら、彼にとっては言い訳にすぎないのだ。

 その雲を見る眼が、仄かに朱に色付いた。
絶え切れず溢れ出した言い訳達は、涙になって、雲が来る前に地を濡らした。

「オレは」


 雫は、まるでビー玉のようだった。
しかし震える声は、やはりその黒い荷を背負う器はない。
彼の暗雲が、ひっそりと彼の肩を掴む。
遂に彼が咽ぶ。
それは運命や彼に課せられた宿命に翻弄されるその彼を、せせら笑った。
それを支える器は、僕にもなかった。

 けれど、僕は落ちてゆくそのビー玉たちを、一つずつ拾い上げた。
ひとつずつ、ひとつずつ。
彼が言いたいことが詰まった、彼の苦しみと、希望たちを。
僕にはそんなことしか出来なかった。
それでも、少しでも救いになれば、と。


「話を止めるな」

 いつかそのビー玉たちが、彼の黒を落としてくれるように。

「続けてくれ」



 彼の唇に指を伝わせると、少しだけ、口が開いた。
彼の、息を感じた。



― letmeknow



*



 まるで目が眩むようだった。
 僕が気がつかぬ間に、些細で、音もなく、しかし確実に、布が風に吹かれるように過ぎていった。
僕が目指していたものも、僕が夢見ていたものも、僕のあの時の感情も、
時間も、この手にあるはずだったものも。
呆然と立ち竦む僕に、時は笑い狂って踊り出す。
目眩がした。
ぐらりと重力が揺さぶられて、膝を付くと、そこには僕の影があった。
 ふと顔を上げれば、そこには空があった。
塞ぎこんだ空。
そこには空の象徴である青はなかった。
白い塊がたくさん並ぶ羊雲は、我先へと意味のない日常競争をする横断歩道の人間のようだ。
そして僕ら自身で、僕らのあるべき青を塞ぐ。
 手にするはずのない1を目指して、我に返っては挫けて塞ぎこんで、
そうやって無意味な怪我を負うのは、全て僕のせいで。
「嫌だ」と叫んで、それでもなお捨てきれないのもまた、全て僕自身。

「どうして」と口にした。


「もう終わりかい」と青を纏った君が言う。

 息切れた手で、僕の影をグシャグシャに握った。

「もう」
 手に残る影の欠片は、蟻のように小さくて、
「僕は」
 力もなく、あまりに脆く、

「………」

 それでも、こんなに生を語っているようで、
僕にはそれを完全に、潰せなかった。

 一度粉々にされたそれは、僕の手のなかで静かに蠢き、僕の手から逃れようとしていた。
ああ、逃げている、生きるために。
僕がこんなに終末を望んでいるのに、
砂のような、鏡のようなそれは、必死に自身を動かして、
そして僕の下へまた再生しようとしていた。

 再び、生きようとしていた。


「まだ終わりたくないんだろ?」君が笑う。
「違う」僕が言った。
「なら終わらせたらいいじゃないか」君の首が傾げる。
「君は残酷だな」
「正論だろう?」
「終わらせる方法なんてないくせに」僕は笑った。

 僕の体は、まるで中身のない皮のようだ。
僕の存在すら、その意味はひしゃげたネジのように、馬鹿みたいで。
消え入りたい僕の心が、僕に「知っているなら、教えてくれ」と、
幼稚を承知で、問わせた。


 彼が、僕に手を差し伸べた。

「終わりなんて、ないさ」


 絶望のような言葉。
けれどそれは同時に、希望を絶つものではない、空を象徴する言葉。
青くて、単純で複雑で、馬鹿みたいで優しくて、それでも、僕がどうしても捨てきれない言葉。
最初から知っていたけれど。

 時間がまた、僕を嘲笑う。

「何故こうなるのだろうな」
「仕方ないさ」君は笑っている。「生きてるんだから」

 僕は苦笑いして、彼の手を取った。


―Because of living



*



 ずっと遠くを見ていた。
ずっと先の、夢見ていたはずの場所。
それは空気に霞んでいて、僕にはそれの本当の姿など知り得ない。
だけど、まるでそこに真があると思い込んでいるように、ずっとその先を見ていた。
だがそれは幻影だ。
僕は見えないはずの未来に、自分の欲望を投射していただけだ。
 ずっとそうしていたから、近くを見るための僕の目はとっくのとうに潰れてしまっていた。
気付いたときにはもう遅いのに。
その通りだと実感したのは、つい最近のことで、けれど僕の目は永遠に治りはしない。
 僕は真っ暗な世界にいた。
井戸の底にでも落ちたようだ。しかしここは底ではない。
底などない。
影すら呑み込んだそれは、僕の足元から、僕がずっと見続けていたその先まで広がって、
僕をすっと見据えていた。
僕は恐怖さえ覚える。
だが目の潰れた僕には、動くことすら、すでにままならなかった。

 そして僕は終わりを知る。
ここが果てなのだと。
底のない、永遠の果てなのだと。

 笑った。
僕の狂った音は、恐ろしいほどそこらに響きわたった。
誰も聞かない。誰も気付かない。
当然だ。僕にすらさっきまで気が付かなかったことを、一体誰が気付いてくれるだろうか。

 笑い声は、露の落ちる音に静まり返った。
 それでも、救いを求めなかったのは、僕だ。

「ざまあみろ」


 それを最後に、声すら、潰れた。



―Endless End



*



 彼の心は、まるで塗り立てのペンキのように、たった一粒の雫で剥がれ落ちた。
嘘と笑顔で塗り固められた色が
次々零れる雫と一緒に地面に落ちて、゙本当゙が露になる。
彼は心臓を押さえていた。
見るなと訴えるように、しかしその音は声にならず。
その本当と嘘の境目は、悲しく、切なく、美しく、
僕は哀婉たる氷像のようなそれに触れたくなった。
 けれど、触れない。
触れられない。
それは氷像ではなく、罅の入った積み木の孤塔だから。


「………て…」
「君が」
「オレが、間違って、……それなら」
「いや、違う」
「なら、どうして!」

 彼が吠えた。
途端、彼は悲驚に震え、深哀に瞳を落として俯いた。

 気が付きたくなかった真実。身を投じていたかった嘘。
TとFの間に生きるには、あまりにも未熟すぎたし、あまりにも知りすぎた。
それを、正しく彼は知っていた。


「もう、終わりだ」



 彼のペンキは、全て剥がれ落ちていた。
露になっだ本当゙が後にただのペンキになるか、
今の僕らには分からないけれど、
その色は、ただ苦しくて、ただ、悲しかった。



―Pain color



*



「大丈夫」

 確証のない確信は消滅する。

「何とかなるさ」

 漠然とした対象は膨張し、弾ける。

「な、ずっと、そばにいるから」

 軽々しく放たれる数々の真実の仮面を被った、確証のない確信たち。

 僕らはそれらを崇拝し、信じ続ける。
その真実がその内偽りに姿を変えることを知っていて、
尚それでも、かなうはずのない真実を。



*



「こんなもの」
「止めろ」

 薔薇の刺みたいな小刀で、彼は自身の体を切り裂こうとした。
狂気に染まった瞳は、オレの一言で一瞬で消え去る。
しかし、憎悪は消えない。
肺の機能しない体は酸素を受け付けず、
息は喉を通ってはそのまま戻されるようで、
彼はそれでも呼吸をしようと必死に肩を上下させていた。
苦しそうだった。

「……こんな、」

 そのくせ、彼の傷付けるものを握る手はがたがたと震えていた。
人間とは思えないぐらいその心臓は凍て付いているのに、
その顔はあまりにひとのようだった。
彼は悪魔の目でオレを睨んだ。
彼はひとの目でオレを見た。
 その悪魔だって、本当はひとの顔をしているのに。
きっと仮面なんだって、彼も気が付いていない。

「」

 確証のない確信を、彼に伝える。
悪魔の目で激怒する。ひとの目で懇願する。

「」

 悪魔の目が狂歌に嗤う。ひとの目が哀歌に咽ぶ。
 それでも、どうすることも出来ないくらい膨張したって、
きっとその先に希望が見えるように。

「」

 かなわなくたって、それが心の支えであることだって、確かなんだと、
きっと彼も気付いているはずなんだ。

 彼の悪魔の目が、閉じる。



「……僕は、」


 ひとの目で、オレを見た。
ただ、ただ、彼の目で。

 その目に映っているのが真か否か、オレに分かるはずがないんだ。
それでいい。
ただ、虚空な真を、分かち合えるだけで、
彼は救われると、オレはそれこそ確信しているから。



―救いのための虚無だとしても



*




虚ろでも、道を示す白い線に
虹が架かりますようにと
祈る日々をただ過ごすだけ




 どうしてだろうなあとおどけて笑った君の顔は、全く笑えていなかった。

 夕日を背にただ佇むだけの君は、もはや石像のようだった。
けれど、一つ一つの破片はぐらりぐらりと揺れていて、
もしかしたら崩れてしまいそうだった。
 煌々と照り付ける赤いそれはまるで世界を手中に収め、大地を燃やしていた。
まだ諦めていないと。
背後に座り込み、いずれその世界を支配する深青に姿を消すと知っていて、
それでもなお。
 しかし、その世界にすら明日がくる。
同じことの繰り返し。
それが宿命なのだ。
それを宿命と受け入れるには、彼の笑顔にとって、きっと未熟すぎたのだろうけど。

「なあ、少し、休んでいいかな」

 そして、石像の欠片たちが、ひとつずつ崩れた。

 彼は笑っていた。
変わらずに笑っていた。
崩れた欠片たちは、その仮面を本当の顔として擦り替えて、ひとつずつ崩れていった。
その悲しみも、苦しみも辛さも、喜びも、
彼の心すら、最初からなかったかのように偽装して。
 それも宿命から自分を庇う仮面であることも、彼は分かっていたはずだった。

「…宿命なんか、」

 それは、彼が生きていく為の選択だった。
生き続ける為に、生を感じる心を捨てた。
生き続けたいが為に、ある種の死を選んだのだ。

 そんなの、余りに、残酷ではないか。


「宿命など、…」

 それでも、僕はその言葉の続きを選択できなかった。
僕も、宿命の存在を嫌と言うほど知っている。
その上、それの支配力も知っていたから、
その宿命を最初からなかったかのように嘘吐くことも、
甘受を勧めることも、
気にするななどと気丈に振る舞うことも、僕には余りにも難しかった。

 そして彼は、「もういいんだ」と笑う。

「最初から、虹なんて夢みたいなものだったんだから」


 石像の欠片はころりと一センチ未満転がって、静止した。
夕日は沈んでいた。



― 赤月も最期



*



「ハハッ、馬鹿だなあ。これだから置いていかれるんだ」

 そんなことを言って笑った地上最速と謳われた彼の顔は、悲しい顔をしていた。
 風は吹かない。日も暮れない。
しかし、夜も明けぬ。
まるで彼の時計が凍ってしまったかのように、彼の全ては立ち止まっていた。
しかし、彼の世界は変わらず自転している。
下を向かない彼はそれを/全てを知っているはずだった。

「誰も君を置いていかない」

 これは慰めではなく、確実な真。
実を付けたそれは彼の世界にも根を張っている。彼の心臓にも。

「何人たりとも君を置いていかない。この世界ごと」
「やめろ」
「君は」

 彼が、抗いをやめた。

「知っているんだろう」


 カチリという音がした。
それは時計の音か、それとも鍵のそれか。
どちらであるか、僕は知りようがない。
その時計の音が、進を刻していたのか、退を囁いたのか、
その鍵が開を意味するのか、閉を呟いたのか、
それすらも、僕は知り得ないのだと、彼の体しか見れないことが、僕にそう告げた。

 世界を知っているくせに、その世界にいる彼の一切を知る事が出来ないなんて、
これはあまりにも皮肉な話だ。
しかし、これが『世界』なのだ。

「僕は君を置いていかない。君も僕を置いていかない。
 それなのに、どうして君は置いていかれることに恐怖を感じているんだ」
「それは世界の話だからだ」
「ならば、答えは一つだろう。君自身が」

 カチリ。

 僕も知っていた。
 知っていても、しかし/だからこそ、
その歩を進める事が出来ないのだという、彼の実の生えた心臓の叫びを。

 それでも尚、僕は彼に歩み出してほしかった。


 立ち止まる、彼の影みたいな体に触れた。
心のあるところに触れた。
その鼓動はまるで、怯えを伝える震繊のようでもあった。

「僕は君を置いていかない」

 それが真実。彼の心に絡まる実。
 けれど、この実が、違う側面で、彼の心を満たす果実になるように。

「僕は、君を置いていかない」


 繰り返した言葉は、今の彼にとって徒のナイフにしか過ぎなかった。
僕にはこれしか術がなかったのだ。
彼を変えるのは、彼自身しか有り得ないから。



― 秒針の音



*



APRIL is the cruellest month, breeding
Lilacs out of the dead land, mixing
Memory and desire, stirring
Dull roots with spring rain.
Winter kept us warm, covering
Earth in forgetful snow, feeding
A little life with dried tubers.


山 積みにしていたことが、今になって僕の方に倒れてきた。山積したものを、生きるために横においていたから、僕の気付かぬうちにビルのようになるまで堆積し ていたのだった。堆積したものは流れ積もるだけ、例え地面になってもそれはただの穴だらけの発泡スチロールだ。どっちにしろ崩れる運命だったのだ。最初か ら、そう歩き出した時点で。仕方がなかっただなんて、今更手遅れじゃないか。

 今までの僕を蹂躙して、「希望がなくても生きていく」だなんて、ただの強がりだったことだって、最初から明白だったのに。
百万回吐いた嘘は、いつの間にか真実になった。
それが虚飾で彩られたことも気付かずに。僕は僕の嘘に騙されたというわけだ。

 声に出して笑ってみた。つらいやくるしいの代わりに、称賛の言葉を使ってみた。
その声は、気が付いたら僕のものではなかった。
蹂躙したはずの僕が、僕を嘲笑った。


「おまえはばかだ。夜明けなんて来ないのに。」



 また雪が降ってきた。
僕はあの頃と変わらない。きっと永遠に。何万回嘘を重ねたとしても。
けれど世界は僕を置いていかないから、気が付いたら雪が溶けて、嘘を積み重ねて、また雪が降るんだ。

 僕はふと、雪より早く雫を落とした。
いつの日にか、僕は笑っていられるだろうか。



― Winter
英詩はT.S.Eliotの『The Waste Land』「 I. THE BURIAL OF THE DEAD」から



*




 知っている、知っていると繰り返せば繰り返すほどに、心臓はズキズキと疼き、痛みを増した。遂には声も発せぬほど。涙は出なかった。雫を落とすには、僕はあまりにも進歩がなかった。だから誰も気がつかなかった。気付いて欲しくもなかったと嘘を繰り返したことも、僕は知っていた。けれど心臓はその痛みが故に嘘を吐き続けた。
その最後の直前を、僕が知る前に、彼が気付いてしまった。

 彼は「ごめんな」と謝った。それが何に対する謝罪なのか、僕は分からなかった。直ぐに彼は僕の疑問の答えを発した。「気付いてやれなくて」、僕の疑問はそれでも晴れることはなかった。彼が謝る必要はどこにもない。

「全ての原因は、僕だ」

 そんな風に自分を追い詰めて、そして自分自身を壊していることも、僕は知っている。しかし、そうするしか他仕方ないのだ。知っていても、実行出来ねば意味がない。それが故に進歩が無いことを嘆いても、その原因が僕にしかないならば、僕は僕を責め続けるしか術がない。そしてこれは僕自身しか解決し得ない。だから、誰かにこの傷を晒すことも不毛であると、僕は知っていたから

「君には関係の無いことだ」

 嘘を吐くしか、僕にはどうしようもないのだ。

「……関係無いわけ、」

 瞬間、彼が僕の首をその片手で掴んだ。
驚いて身を引いたが、しかし彼はそれ以上のことはしなかった。ただ掴むだけ、『掴む』という表現はあまりにも乱暴だと思うほど、彼の手には力が入っていなかった。
 何のつもりなのか僕は分からなくて、そのまま彼を見つめた。彼は、彼自身の手を見ていた――いや、手ではない。僕の首元だ。

「どうして抵抗しない」

 先ほどの優しげなものとは裏返したように全く変わった、激怒を含んだ声だった。だが僕は変わらず動かなかった。彼が本気で僕のいきを盗もうとしないなら、僕は抵抗する理由がないからだ。それに、彼はそれほど残虐ではないし、それほど優しくもない。

「死んでもいいのか」
「君は僕を殺さない」
「じゃあ、オレがオマエを殺したら、オマエはその万一を、また自分のせいにするのか」

 僕は唾を飲んだ。彼の指の感触を強く感じた。

「そうだ」

 彼が今、どんな感情に支配されているかなんて、僕には知り得ない。ただ、彼がその良感情とは言えない気持ちに駆られている全ての原因は、また、僕にあることだけは分かっていた。しかし、どうすれば良いかなど分かる術などなかった。いつものように。僕は、徒、まるで世界から隔離された動物園の檻の中から外を歩く人々を見つめるように、その成り行きを見つめるだけ。
 そんな風に傍観していたら、微かに、彼の震繊を感じた。

「……どうして」

 彼は苦しげに発した。

「全部自分のせいにして、そんな風に自分を壊していって、その先に何があるっていうんだ?
 過去か?未来か?
 天国か?地獄か?
 希望か?絶望か?
 そんなモノに、一体何の価値がある」

 全てを乗り越えて、そして全てを受け入れた彼だからこそ、言える言葉なのだと、僕は思っていた。

「ここにあるのは、『今』しかないだろ」

 まるで偽善だ。喜劇だ。道化だ。
僕は心の中で嘲笑する。
けれど、彼の言葉は決して空っぽのものではなく、むしろ彼の全ての人生であることは、僕は分かっていた。
ただ、僕にその言葉を受け入れる器がなかっただけ。
僕はもう一度、心の中で嘲笑した。

「抗えよ」

 彼の手の震えが増幅した。
きっと今度こそ、彼は本気だ。
しかし、僕にはそれこそ価値を感じられなかったから、突っ立ったまま彼を傍観した。それでも良かった。原因を全て僕に投げ付けるほど、簡単なことはない。そしてこれが最後になるなら、これほど楽な事はなかった。
 ああ、きっとこれで良い。

「抗えよ。そしてオレのせいにするんだ」

 彼はそれを許そうとしなかった。彼はそんな風に、いつも僕に辛さを押し付けた。その理由はいつまでも分からない。

「抗えよ。そしてオレを殴って、」

 彼の事は何も知り得ない。世界の事ばかりが鮮明になる。

「…抗えよ。だってこんなに、」

 彼が遂に、僕の手を握った。

「オマエは、生きようとしてるじゃないか」

 あまりに強く握るから、僕は、自身の震繊を隠し切れなかった。



― Move
move:指定された環境で人生を生きる
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