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« a sham world's end | レールを走る電車の、日常と »

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« a sham world's end | レールを走る電車の、日常と »

雲の下に生きる道化師


・ソニックとナッコ
・超絶シリアスです最初からクライマックス
・ハッピーエンドじゃないです。最後までもやもや
・キャラ崩壊注意
・ソニも若干ですがナコがなよなよです。ナコ泣きます。何故か鬱々としてる。





 彼に苦しいと言われて、オレは一瞬戸惑った。
話題を振ったのは、オレだ。
何やら様子がおかしい気がして、どうしたと問うたら、そんな返事が来たのだった。
思いがけない返答だった。
彼は確かに真面目で無茶をしやすい性格だとは思っていたが、
突然そう言われるとやはり少し驚いてしまう。
 オレがそうしていると、彼はふと俯いた。
後悔のような、絶望の色を表情に背負っていた。
その相当深刻そうな影に、オレはしっかりと向き合わざるを得なかった。

「何がそんなに苦しいんだ」

 彼の隣に腰掛けて、様子を伺う。
彼が守護する空島の宝石が、オレと彼の背を照らす。
その影は葉の色に染まる事はなかった。
 彼は膝にそれぞれ肘を付いて、頭を抱えた姿勢をしていた。
それは表情を見せぬ為か、涙を隠す為か。
オレには彼の口元しか見えなかった。
だが、彼の心を伺うには十分だった。

「…忘れてくれ。ただ、」

 そこまで言って、息を止めて、再度忘れてくれと彼は請うた。
彼の小さく開かれた口から、強く食いしばる歯が見える。
それからぎゅっとそれの封をした。
彼は暫く頑に言を閉じたままだったが、ふとそれの封を切ると詰まった息を吐き出した。
「馬鹿野郎」と呟く。
それはオレに言っているのか、彼自身に言っているのか、
思案しようとして間も無く今度は、畜生、と吐いて彼は唇を噛んだ。

「どうして。どうして」

 小さく開いた口から、一言、繰り返して、二言。
 オレにはその意味が分からなかった。
ただ彼の苦しみだけが、オレの脳に受信される。
オレの眼には彼の辛さが映り、オレの耳には彼の悲しみがこびりついた。

「理由なんて考えるな」

 オレには彼の苦しみは分からない。
彼が話さないなら、いや、もしかしたら話してくれても、オレには一生理解し得ぬ苦しみかもしれない。
ただ、彼の「どうして」の意味が、理由の提示を請うもので、
それが彼を苦しめているなら、いっそ考えない方が、彼の為かと思ったのだ。

「一生知らない方が良いって言うのか」

 数分おいて、彼からこんな言葉が返って来た。その口は思ったよりゆっくり動いた。
「知りたいと思うのか」
 問うと、彼は喉がつっかえたように息の塊を吐いて、そのまま黙り込んでしまった。

 どうやら、思ったより難しい問題らしい。
 彼が言を失ってから、数十分経った。もしかしたら、数時間経っていたかもしれない。
雲は平然とした顔で地球の頭を通り過ぎていた。
それは形を変えながら、或いは消えてまた生まれ変わりながら、
この地面に天国や地獄を与え この球を回る。
そんな生産性のない事を、奴等はどうってことない、って言うように、
何百年何千年何万年、何億年と続けているのだ。
まるで、与えられた運命なんか微塵も気にしてないみたいに。

 でも、宇宙と接する奴等は、きっと、運命と全てを嫌ってぐらいに知っている。



「知りたい。でも、きっとそれは恐ろしい。
 だからと言って、希望なんて、もう俺はいらない」

 形を変えて合体した雲達が中央にぽっかりと大きな穴を開けた頃に、彼が零した。
「本当にいらないのか」と問うと、「希望を持った所で、どうする」と聞き返された。
「前に進む為さ」と答えたら、彼は黙った。
長い沈黙に体勢を整えようとした刹那、彼は不意にそれを開いた。


「そんなの綺麗事だ、って言ったら、お前は笑うだろうな」

 彼の口元が歪んだ。


 遂に、彼は自身の手で顔を覆わざるを得なくなった。
「見るな」と言われたが、目を逸らす事などオレに出来る訳がなかった。
崩れた彼の心の欠片が、地面に落ちて染みを作る。
その様子は雲が与える地獄と同じだった。
しかし、真っ黒な影はしっかりと彼の体に取り憑いて、崩れ落ちる事はなかった。
むしろそれは比例して大きくなって、彼の肩を食い込むぐらいに掴んでいるようだった。
そんな風にオレは思えた。

「どの答えも理想ばかりだった。
 でも、最後に見た答えは、苦しみそのものなんだ。
 どうして。なあ、オレはどうしたらいい」

 彼の絞り出した声は、彼を取り付く影の答えと同じ色をしていた。
彼の手から、僅かにその口が覗く。その唇は、血に滲んでいた。


「ソニック ……」




 考えれば考えるほど、深みに嵌まっていく。
そしてそのまま闇に葬りざるを得ない質問と答えは、
オレたちが生きていく以上は幾つも沸いてくる。
しかし、それらがどんなに苦しくても、オレたちはこの体に流れる血潮を断ち切る事が出来ない。
 それは、オレたちが、この回る球の上に生まれた生き物だからだ。
 それでもその血根を断ち切れる生物は、
本当は誰よりも高知能な生物なのだと、オレはつくづく思う。
「しかしそんな人は馬鹿だ」と言う人がいるなら、
オレはそれこそ「オマエは道化師だ」と言うだろう。

 そんなに単純なことじゃないんだ。

 けれど高知能な生物になんかなれないから、オレたちは生きていかなきゃならなくて。
そしてそれは、生かされていると同義なのだと、生きている内に知る。
 ともあれ、何も断ち切る事が出来ずここにいるオレたちは、どうしているかと言えば、
オレがその彼(彼女)にそう言ったように、少なくともオレは、
偽善を謳う道化師にならなければならないのだ。

 それがどんなに耐え兼ねる事であっても。
 断ち切る事も忍びないオレたちは、そうするより他は無いのだと。


 『でも、そうする事で叶えられる願いもあるんだ。』
 なんて騙るオレはきっと誰よりも、根からの道化師なのだろう。



 しかし、彼にはそんなことを言っても、ただ影が深まるばかりだ。
オレにはどうすることも出来ない。
彼の「どうして」の意味が分かった今、道化師であるオレは言を閉ざさなければならなかった。

 再び彼に苦しいと言われて、しかし今度はオレは微動だにしなかった。
 空の雲の穴は、大きくなるばかりだった。
オレは藹然と流れる様子を、ただただ見上げていた。

 オレは、雲は自身の産みの親よりもずっとずっと強いと思う。


「オレにはオマエを救えない。でも、ずっと待っているさ。
 オマエがけじめをつけて、オレの眼を見てくれるまで」



 雲の大きな穴から、また綺麗な空が見えるように。
 きっとそれは宇宙じゃないけれど、
 その時オレは、彼の瞳が晴れるのを、真に願っていた。




― 雲の下に生きる道化師



*


この話は、テーマ的に小説「right back where you came」との繋がりがあったりなかったりです。続きもののような感じになってました。テーマ的に。


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