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« 雲の下に生きる道化師 | 絵本のおはなし »

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レールを走る電車の、日常と



振り回されるソニックが書きたかった第二弾笑
・シャドウとソニック
・シリアス<ほのぼの




 ミスティックルーインでたまたま会って、ステーションスクエアに帰ると言うから、
オレもそこに用があったのでそれじゃそこまで競争しようぜと誘ったが、
彼が電車で帰ると言うので、何となく付き合うことにしたら、
ああ、このザマだ。

 向かい合わせに一列の長い椅子が伸びている型の車両だった。
席はガラガラだった。ミスティックルーイン駅を利用する人はほとんどいない。
いるとすれば、森林浴者か、遺跡探検家か、遺跡マニアぐらいだ。
 彼は端の席に座るなり、親父臭く溜息を吐いて、体を背もたれに深く預けた。
続けて彼は「疲れた」とひとりごちた。
その通り彼は随分とお疲れの様子で、瞼の垂れたその眼はぼんやりと宙を眺めている。
オレが隣にいるのに、だ。
話をする様子も聞く様子もなく、
否それどころではないぐらい疲労困憊の色が濃く彼の顔に現れていたので、
勝手についてきたのはオレの方だし、別段失礼だと思うこともなく、沈黙を続けていた。

 オレは、その間、向かい側の窓から海を眺めていた。
海沿いに進む電車からは、窓一杯にそれを眺めることが出来る。
大きな青い絨毯は、日の最後に照る夕の光を弾いて、白や黄色に輝いていた。
電車の窓枠にぎゅっと詰まれた水たちの風景は、まるで宝石箱のようだった。
普段見る次々線になる緑や赤や青と同じぐらい、その一つの絵は美しかった。

 その時、電車は大きくガタンと揺れた。
海に集中していた意識は拡散して、次の瞬間、散った意識はオレの肩に一気に集合した。

「………」


 Oh,my god...、と、思った。


 彼は、オレの肩で小さく寝息を立てていた。
彼が呼吸する度に、体が微かに離れたり触れたりした。
何かのジョーダンだろ、と思ったが、彼の眼は黒い瞼に深く閉ざされている。
何かのジョーダンだろ、ともう一度思った。
 眠った彼が、先ほどの電車の揺れでバランスを崩し、オレの体にもたれ掛かった、と言うワケだ。
片側隣は壁だろ、そっちに寄り掛かれよ、そう訴えるように睨み付けるが、
深い睡世界に身を落とした彼が気付くわけもなく、返ってくるのは安らかな寝息ばかりであった。

 カンベンしてくれよ。
ラブラブカップルならともかく、ヤローがヤローに寄り掛かるなんてクレイジーだぜ!

 しかし、やつれた彼の顔を見ると起こすのが罪な気がして、
それに彼のことだ、彼の体を動かして壁にもたれ掛けようとしたら、それだけで覚醒するだろうし、
オレはどうすることも出来なかったのだった。


 ふと、滅多に嗅がない匂いが鼻をついた。
硝煙…
気が付いて、オレの心臓が突然揺らいだ。
あのジャングルで事件が起こった気配は無かったし、GUNの訓練でもあったんだろうか。
訓練するまでもないほど彼が強い事は知っているし、
彼自身も根拠の無い自信を振り撒いてるわけじゃないのは分かっているから、
恐らく訓練は強制なんだろう。

 彼がこんなに疲れたのは、訓練のせいか、人のせいか。
 彼を歓迎していない人は少なからず居るはずだ。
が、彼がそんなものに心を挫かれるわけはない。
オレがよく知ってる。彼は強い人だ。
それじゃあ、訓練が相当厳しいものだったのか?…


 これが根拠のない確信なんだと気が付いて、オレは思わず彼を見た。

 まさか。


 コイツは強い。誰にも負けない精神を持っているはずだ、と。
 もし、これが徒のオレの妄想だとしたら。
 もし、彼がオレに寄り掛かったのが、彼の無意識のサインなんだとしたら。


「まさか」



 ガタン、電車が大きく上下に揺れた。
 彼がオレの肩から落ちそうになって、思わず彼の頭を押さえた。
相当熟睡しているらしい彼はそれでも起きず、
柔らかな息をオレの肩に落として、引き続き呼吸を続けた。

 Shit、そのまま偶然を装って起こせば良かったぜ。

 しかし、それは表面上の意識。
それでも彼を起こさなかったのは、オレの裏面の意識が、表と相反していたからだ。
オレは心の奥底で知っていたけど、何だか癪に障ると言うか、
気色悪いので、気付いていないフリをした。


 突然、彼が小さく唸った。
 起きたのかと思えば違うらしく、それは寝言らしかった。
寝言と言えどそれは言葉にはなっておらず、彼はまた小さく呻いて、
溜息ほどの息を吐いた後、再び深い眠りに落ちた。
彼のその表情には疲れの色が出るばかりで、
彼がその瞼の裏でどんな夢を見ているのか、オレには全く分からなかった。



「…シャドウ」

 小さな声で呼び掛けた。彼とオレにしか聞こえない、小さな声で。
勿論、彼が熟睡していることも、何を言っても彼には届かないことも知っている。
けれど、もしこの根拠なき確信の反対が、彼の現実なんだとしたら、
オレはそう考えただけで、居ても立ってもいられなかった。


「なあ、シャドウ。
 いつだって、オレたちがついてるから」

 一人じゃ支えきれなくても、オレたちみんながいれば、
それがどんなに重くても、絶対支えられるから。


「無理すんなよ」



 ガタン、ガタン。
レールを跳ねる音が、空気を揺らした。




 さてステーションスクエアに到着したものの、
声を掛けても揺さぶっても、頭を小突いても彼は一向に起きる気配を見せなかった。
そうしている内にドアは固く閉ざされ、電車はゆっくり次の駅へと発車した。
 都会の帰宅ラッシュに巻き込まれ、このクソ恥ずかしい状況を
大勢の働く大人たちに大公開する結果になっちまったと言うわけだ。
他人のフリでもしようと思ったが、
見た目は彼と瓜二つのオレが「コイツ誰」オーラを出したところで信頼されるわけもなく、
それ以前に、オレと彼が知り合いだと言う事はテレビで全世界に発信されているだろうし、
オレは今度こそどうすることも出来なかったのだった。
 OK,OK。恥をかいてるのはオレだけじゃないさ。
むしろコイツの方が恥ずかしいはずだし…。

 いや、今恥ずかしい思いをしているのはオレだけで、
彼にこの状況を話したとて「そうか」だけで終わりそうなのは目に見えている。
 もしかして、大損しているのはオレだけ…?

 ああ、やっぱりあの時起こせば良かった!

 しかし、それでも起こしづらいと思わせるコイツは罪な男だぜ。
マスコミが気付いていないだけマシだな、とオレは心の中でひとりごちた。


 彼は遂に終点まで起きず、起きたと思ったら「何故起こさなかった!」と怒鳴られた。
泣きっ面に蜂とは正にこの事かと思いつつ窓の外を見ると、真っ暗な空に金の粉が瞬いていた。



― レールを走る電車の、日常と

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