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« 絵本のおはなし | オリソニSSS »

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箱と彼女と繋がり


何気に振り回されるソニックが好きという話w

・ほのぼの
・ソニエミ風味
*

 僕は、彼にある一つの機械を差し出した。
スライド式の、最先端の技術を使って
厚さ僅か5ミリにすることに成功した、最新式の通信機器。
それは俗にいう、携帯電話である。
 彼は、それを見るなり怪訝な顔をした。
それから嫌そうに舌を出して「What`s this?」と問う。
「見れば分かるだろう」と言ってこの機器の名を答えると、
彼が更に嫌そうな顔をして、違うそうじゃなくて、と返してきた。

「冗談じゃない。しかも、オマエが?オレに?ますますノーサンキューだぜ」
「違う」 気色悪くなって、思わず僕は声を荒げた。
「これはエミーからだ。僕からではない」

 それこそ冗談じゃない、と僕は心の中で呟いた。
彼はふーんと相槌を打ち、怠そうに目を細めてそれを見る。
 僕の持つゴツいトランシーバーとは違う小型機器。GUNもこれを使えばいいのにと思う。

「No thanks anyway.エミーに返しといてくれ」
「無理を言うな。僕が何をされるか分からん」
「オレだって!」 声を跳ねさせた彼は、肩をすくめて軽く首を振った。
「絶対ソレ、GPS付いてんだろ。24時間監視されるんだぜ、考えるだけでゾッとする」

 僕が差し出した手を突き返して、彼はツンと体をそっぽ向かせる。
GPSとは何か分からないが(僕は少し現代機器に疎い)、色々操作してみると
どうやらそれらしい機能の設定画面に辿り着いた。
彼はこれが嫌らしいが、それ自体の存在を知らない僕にはその所以も分からない。
 しかし、彼を追いかけ恐らく幾数年、エミーもよくやるものだ。
彼の為に通信機器まで用意したのに、彼と来たらこの態度だ。
これでは彼女の苦労も報われぬ。
いつもの事でもあったが、ともかく僕は彼女が急に気の毒になったのだった。

「これはエミーが君に追い付けない代わりに、僕に託した物だ」
僕は再び彼に握る手を突き出した。「彼女の事も考えてやったらどうだ」
「いらねェよ、そんなもん」 彼は今度は口を尖らせる。
「話があるなら直接会えば良いさ」
「それが出来ないから彼女は……全く君は!」

 彼女の気持ちを察しない彼に、僕は苛立ちを覚えて
思わずまた声を荒げてしまった。
 駄目だ、これは。
彼はどんなに説得されてもこの機器―に込めた告白―を受け取りはしないだろう。
或いはショック療法なら効くかもしれぬ。
しかし、それをすれば今度はきっと彼女が許さないだろう。

 ―いや、これならどうだ。


「それならば、これは僕が貰う」

 彼に突き出した手をパッと自分の方へ引き戻して、僕はそう吐き捨てた。
は、と君が素頓狂な声と共に眉をアーチ状に吊り上げた。
僕はその目を睨み返し、鼻息で彼を突き放す。

「君が受け取らないと言うなら、これは誰の物でもない。
 しかし、これをエミーに託された僕なら、これを貰う権利があるだろう。
 それなら、これは僕が頂く」
「ちょっ…、Wait、wait!」 彼が僕の発言に食いついた。
「ほ、本気かシャドウ!それにはGPSが…」
「君はさっきからGPSとやらにこだわっているようだが、何だそれは」
「はあ!?オマエ、GPS知らねェのかよ…
 GPSていうのはGlobal positioning systemといって、
 その携帯を持つ事でその持ってる奴が地球のどこにいるかっていうのを
 調べられるっていう…じゃなくて!」

 律義にも詳しく教えてくれた彼が、僕の手からぱっとそれを取り上げた。
先ほどまでこの話題にそっぽ向いていた彼のほぼ衝動的な行動に、僕は彼を見てみた。
彼の口は気まずさを交えながらぎゅっと閉まり、その頬は何故か朱に染まっている。

「……オマエなァ」

 脱力し垂れた瞼から、淡い緑の瞳が覗く。
それは僕を睨み付けているものではなく、
己の恥ずかしさへの反発であるように思えた。
 への字に折れ曲がった彼の口が、小さく開いた。

「……オレがこうやって一人で勝手に旅が出来てるのは、オマエたちのお陰なんだ。
 知ってたか?オレは、帰る場所がないんじゃなくて、
帰れる場所があるから、自由でいられるんだ。
オマエたちが変わらずそこにいてくれるって知ってるから、走っていられるんだ。
 エミーだって、いや、少しは特別な…」

 げほん、と彼はわざとらしく咳をして、

「だから、いらねェんだよ、こんなモノ」

 そのままの瞳で、彼の握る、彼の思う者の代わりを請負う器の無い、
その平坦な箱を見た。

 「だから返しておいてくれ!」、彼は雰囲気をリセットするように声を荒げて、
僕にその邪魔者を押し付けた。
それからツンと顔を横に向けた彼を見ると、恥ずかしそうに赤らめて、
けれど、そう、確かに彼はどこか嬉しそうだった。

 そういう考え方もあるのか、と思った。



 ―今は繋がりすら許されない彼女。
当時も、あの箱舟は僕達には広過ぎたし、
それに対応出来るほど技術は発達してなかったから、
連絡を取り合うことにはとても苦労したものだった。
僕が目を離した隙に、彼女に何かあったら。
十に一とも言えるほど、可能性はあった。
だから、いつでもどこでも、彼女と繋がることが出来たらいいのに、と。

 彼の考えは、僕のそれとあまりにも違ったから。


「…やはり、これは君が持て」

 そう言って、返されたこれを、彼に差し出した。
 そして、一言付け足した。
これは、彼にとって悪戯にしか聞こえないだろうけど。

「これを返すついでに、僕に言ったのと同じことを彼女に言ってやればいいだろう?」
「ハア?!のーうぇい!ジョーダンじゃないぜ!」

 思ったとおりの反応だ。
 しかし彼にこの彼女の告白の形を押し付けて、
僕はカオスコントロールでさっさとその場を去った。

 その後、彼はどうしたのか、僕は知らないし興味もない。
しかし、僕も彼も、誰かを思っていた気持ちの強さに変わりはなかったのだと、
あの青い空を見て、性に合わないことを思ったのだった。



― 箱と彼女と繋がり
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