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オリソニSSS


今のところアルとレシフェしかないです。


― 経験論
― 嘘と真(BL風味)




◯アルとレシフェ




―経験のみが、世界を作る。
『私』が物体(それを仮にAとする)を認知しなければ、Aというものは存在しない。
『まずAがそこにある』ではなく、『私』がAを見て、
『それがAである』と「経験」して、初めてAが存在することが出来る。
だから、『私』が目を閉じていたり、Aを視野に入れなかったりすると、
Aというのは存在しなくなる、というのだ。
経験こそが世界であり、経験こそが全てであると―


「それは、『経験論』と言ったか」

説明を聞いたレシフェが、そう返した。
どうやら、彼は既に、この国最古の外国の知識を記した書物を読んでいたらしい。
それなら、話は早い。


目を閉じる。

「こうしたら、レシフェはいなくなるのか、オレから」

広がるのは、真っ暗な世界。
誰かが考えた世界。
それが真か偽かなんて分からないけれど、
今この地点で体験する、この経験のみが全てなら、

「オレはここにいる」
「レシフェはいない」
「オレはここにいる」
「いないぜ」


「何処にも」


なんて、辛い事だろうか。


「アル」


ぱっ、と視界の電気をつける。
レシフェがいる。
こうしてオレにとって、レシフェの存在が認められる。


―一緒に居るはずなのに、いない。
そんな錯覚の非孤独で喜を得ているなら、
それは、それはなんて―



「だとしたら、オレはそれを否定したい」

レシフェが、オレに代わって言った。

「オレはずっとここにいる。ずっとアルのそばにいる」

オレを真直ぐに見つめて、

「もしそれが真実なら、いつ如何なる時でも、
オレはお前にオレの存在を訴え続ける。
 お前の名を呼び、お前の手を握り続ける」

オレを貫くように見つめて、

「オレは、そうしたいと、望む」


深緑の瞳で、訴えた。



「オレも、そうしたい」

その言葉は、未来にとっては曖昧だけれど。


―その論を知ったこの先ずっと、例えそれが一瞬でも、
 自分にとっての彼の存在が消えてしまう時があるのなら、
 それは怖くて悲しい事だと、

そして、この先ずっと、不断に二人の経験が約束されるなら、
それ以下の事も、それ以上の事もいらないと思ったんだ。



― 経験論



*




〇 アルとレシフェ




 「好き」と言ったはずだった。
それなのに、途端に彼は悲愴に顔を歪めて泣き出した。
それは喜びからではないのは、俺にも分かった。
そして、俺は驚愕する。

 彼は俺を睨み付けた。
悲しみと憎しみに駆られた眼であった。

「オマエなんて、大嫌いだ」

 吐き捨てるように、一言。
 何故かと半ば問い詰めて、半ば無意識に触れようとした時、
その手を叩き落とされた。
まるで、虫か何か、汚い物を払い落とすように。

 もう、オレに近付くな―――。
 それが最後の言葉だった。


 「好き」と言ったはずだった。
 それなのに、これの、どうしたことか。
 俺には何一つとして残っていなかった。

 まるで、「好き」が途端に「嫌い」になったみたいだった。
「好き」という言葉が一瞬にして姿を変えてしまったみたいだった。
いや、きっと、違う。
「好き」という言葉が、一瞬にして嘘になってしまったのだ。
声にした途端それは虚言になって、
それどころか裏返しになり、彼の耳に届いてしまったのだった。

 どうして。



 一人、呆然と立ち尽くした。
何もない。
ただ、窓から差し込んだ赤い夕焼けが、目に映る風景を燃やしていた。


「アル、」


 この言葉も、もしかしたら、もう既に嘘になっているのかもしれない。




*




 もう、オレに近付くな―――。
 また放たれたその言葉は、しかし、ただ悲しみに染まっていた。
俺が崩れ落ちた彼の肩に触れると、今度は振り払うこともせず、
彼はその肩を震わせて、瞳からこぼれ落ちる露で地面に染みを作った。

「もう、オレに、近付かないで、くれ」

 細かに息のような声を出して、今度は懇願した。
 彼の肩から腕へ手を滑らせ、オレは何度かその運動を続けた。
彼の、いつもは逞しい樹のような腕は、幹が削げ落ちた枝のように
力なく、細くなっていた気がした。

「……何故」

 彼の手首を、それから地に付いた手を撫でながら、問うた。「…俺は、」

「お前を、」
「やめてくれ」

 彼が、涙に濡れた声を荒げた。
哀願した彼は、それでも、重ねた手を振り払おうとはしなかった。
代わりにその手を握り締めて、彼は音を振り絞った。

「・・・俺を、愛さない、で」

 音と、小さな息と共に、地面に雫が幾つか零れた。

「失った、時に、つらくなる、な、ら、もう、なにもいらない」

 彼の心の結晶が、地に溶けて滲む。
 俯けた顔を一層下に向けた彼の表情は、最早こちらからは見えない。
どれほど苦しい表情をしているだろう。
その心はどれほど辛く、悲しい色に塗り潰されているだろう。
俺には、恐らく一生知り得ない。

 それでも、俺は伝えるべきだと。

「俺を愛友と呼んだのは、お前だろう。俺を、愛すべき友と。
 俺は、ずっとそのような関係でいたいと、強く願っている。
 お前がそう望まぬとも。
 だから、」


 彼にとって、どんなに罪深い言葉でも。


「俺は、お前を愛している。」



 彼はその言葉を拒むように、ずっと静かに首を横に振り続けていた。
ぽた、ぽた、彼の露は、連続的に降り続けていた。
そして、彼の体、腕、手、息までもが、怯えるように震えていた。

「アル」
「…いや、だ」

「アル」

 その彼の名を、強く呼んだ。

「……俺は、きっと、ずっと、お前のそばに」


 確信も確たる保証もないけれど。
 お前も、そうしてくれるのだろう?



「我が、愛すべき友よ」



 ゆっくりと、彼の震える体を、そっと抱き締めた。震繊が伝わる。
彼の心臓の拍動も。
 彼は俺を受け入れて、その体を俺に預けた。
暖かい雫が、俺の肩に落ちた。

 ずっと、そばに、いて、―――。
 目を閉じた俺に、そう願う彼の声が聞こえた。


― 嘘と真



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